不動産特定共同事業は、投資家から多額の出資を集めて不動産に投資し運用を行うため、投資家保護を目的として、様々な許可要件が法律で定められており、監督官庁の厳しい審査を通った事業者にのみ事業許可が与えられます。

以下では、不動産特定共同事業の許可審査の際に障害となることが多いポイントについて説明いたします。

不特法許可審査における主なNGポイント

主に財務要件と組織要件に抵触してしまうケースが多いです。

資本金が足りない

不動産特定共同事業の許可を取得するためには、許可を取得する事業の種類(第一号事業〜第四号事業)に応じて法令で定められている金額の資本金である必要があります。

第一号事業: 1億円
第二号事業: 1000万円
第三号事業: 5000万円
第四号事業: 1000万円

資本金が足りない場合には、増資して資本金要件を満たす必要があります。

直近期が赤字

不動産特定共同事業の許可取得を目指す事業者は、原則として3期以上の事業実績があり、

•許可の申請日を含む事業年度の前事業年度における財産及び損益の状況が良好である
•財産及び損益の状況が、許可の申請の日を含む事業年度以降良好に推移することが見込まれる

といったことが審査にて確認される必要があります。

基本的に直近期の決算が黒字であることが要求されますので、赤字であった事業者は黒字転換してからの申請を要請されることになります。

社内に業務管理者の有資格者がいない

不動産特定共同事業の許可申請を行うためには、法定の資格要件を満たす「業務管理者」を選任する必要があります。業務管理者には宅地建物取引業における専任の宅地建物取引士のような「専任性」「常勤性」が求められるため、外部の有資格者に兼務をお願いするなどの対応は認められないことから、資格要件を満たす社員がいない場合には、社員の方が頑張って資格を取得していただくか、有資格者を社員として外部採用することが必要になります。

充分な知識•経験を有する人材がいない

不動産特定共同事業をを行うためには、事業を適確に遂行するに足りる人的構成(組織体制)を有する必要があり、不動産特定共同事業の営業に関する責任者である業務管理者以外にも、営業部門が行う業務が適法かつ適切に遂行されているかをチェックする機能も備えている必要があります。
許可審査においては、そのような法が求める水準の業務を行うことができる体制が整備されているかも厳しくチェックされるため、知識•経験を有する人材を配置したり、関連社内規定が定められていないと、事業許可を受けることができません。 

不動産特定共同事業の業務管理者になるための資格要件のうち、「登録証明事業」による証明を受けていることを証明するためには、以下の3つの資格のうちいずれかの登録を受けている必要があります。  

それぞれの資格の試験制度や登録資格が異なるため、ご自身に合った資格取得を目指してください。


不動産特定共同事業の登録証明事業①公認不動産コンサルティングマスター

不動産コンサルティング技能登録制度

登録要件

次の1~3のいずれかの要件を満たし、かつ、登録の欠格事由に該当しないこと。

但し、試験に合格した日の属する年度の翌々年度の3月末日以降に登録を受けようとする方は、「演習問題」の解答が必要。

  1. 宅地建物取引士資格登録後、不動産に関する5年以上の実務経験を有し、登録申請時において、宅地建物取引士証の交付を受けていること。
  2. 不動産鑑定士登録後、不動産鑑定業に関する5年以上の実務経験を有し、登録申請時において不動産鑑定士の登録が消除されていないこと。
  3. 一級建築士登録後、建築設計業等に関する5年以上の実務経験を有し、登録申請時において一級建築士の免許が取り消されていないこと。 ただし、「構造設計一級建築士」、「設備設計一級建築士」の登録を受けている方は、5年以上の実務経験を満たしていることが既に証明されているとみなされるので、いずれかの建築士証の写を提出することで、実務経験証明書の提出は不要となる。
  4. 3年間の実務経験とセンター指定の講座受講(令和5年10月以降の新要件) ※詳細はこちら
    ・不動産特定共同事業に関する講座
    ・不動産コンサルティング実務に関する講座
    ・相続や不動産プロデュースなどをテーマとする特別講座

※上記1~3の実務経験年数を合算することはできない。

※受験時に申請した受験資格(宅地建物取引士、不動産鑑定士、一級建築士)での実務経験が必要。

手数料

*登録手数料: 19,000円(税込) ※有効期間5年

*更新手数料: 10,900円(税込) 

不動産コンサルティング技能登録制度の詳細はこちら

不動産コンサルティング技能試験(令和7年度)

試験実施日

令和7年11月9日(日)
択一式試験(午前)及び記述式試験(午後)

申込受付

令和7年7月16日(水)10:00~9月17日(水)23:59

受験料

31,500円(税込)

合格発表

令和8年1月9日(金)

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不動産特定共同事業の登録証明事業②ビル経営管理士

ビル経営管理士の登録手続

登録要件

ビル経営管理士試験に合格した者で、賃貸ビル(階数が5以上で、延べ面積が1,000㎡を超えるものに限る。以下本項において同じ)経営管理の業務に現に従事している者、過去に従事していた者、または今後従事しようとする者であって、次の各号のいずれかに該当する者。

  1. 賃貸ビル経営管理に関し3年以上の実務経験を有する者。
  2. 賃貸ビル経営管理に関し2年以上の実務経験を有する者であって、指定講座を修了した者。
  3. 不動産経営管理に関し5年以上の実務経験を有する者であって、賃貸ビル経営管理に関し2年以上の実務経験を有する者。
  4. 不動産経営管理に関し5年以上の実務経験を有する者であって、指定講座を修了した者。
  5. 不動産特定共同事業に係る業務に関し2年以上の実務経験を有する者。
  6. 不動産投資顧問業登録規程に基づく登録を受けた総合不動産投資顧問業に係る業務に関し3年以上の実務経験を有する者。

※賃貸ビルとは、主に事務所用途のビル、複合ビルを含む賃貸ビルです。

*賃貸マンションは不動産経営管理になります。

*登録欠格事由」に該当する場合は、登録要件を満たした場合でも登録を受けることはできません。

手数料

*登録手数料: 22,000円(税込) ※有効期間5年

*更新手数料: 11,000円(税込) 

ビル経営管理士の登録手続の詳細はこちら

ビル経営管理士試験(2025年度)

試験実施日

4科目受験(総合問題あり):2025年12月6日(土)13:00~16:45
3科目受験(総合問題免除):以下の期間内にて実施。
2025年12月7日(日)~2025年12月13日(土)

申込受付

2025年10月1日(水)10:00~2024年10月31日(金)23:59

受験料

33,000円(税込)

合格発表

2026年1月30日(金)

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不動産特定共同事業の登録証明事業③不動産証券化協会認定マスター

不動産証券化協会認定マスター資格制度 

認定要件

提出された申請書類にもとづき、以下の要件等を審査し、適格と判定した方をマスターとして認定する。

「2.実務経験要件」のみ未充足の場合にはアソシエイトとして認定する。

  1. 知識要件: 資格認定を申請する年度のマスター養成講座を修了していること
  2. 実務経験要件: マスターとして資格認定されるためには、金融業あるいは不動産業等における実務経験を2年以上有していること
  3. 倫理行動要件: マスター職業倫理規程や当協会が定める諸規則を遵守する旨の誓約書の提出

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不動産証券化協会認定マスター養成講座

マスターになるためには、マスター養成講座Course1、Course2をそれぞれ修了する必要があります。

Course1

Course1受講申込: 5月中旬頃から5月下旬

Course1受講: 6月中旬〜11月下旬

修了試験: 11月第3土曜日
(マークシート方式による四肢択一問題(午前・午後合計100問)

Course1合格発表: 12月中旬

Course2

Course2受講申込: 12月中旬

Course2受講: 1月中旬〜3月中旬
(3科目のweb講義/レポート課題の提出/スクーリングへの出席・マークシート方式の確認テスト)

Course2修了者発表: 5月上旬予定

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小規模不動産特定共同事業を検討する場合の注意点

小規模不動産特定共同事業は、従来の許可事業に比べて、事業者の資本金要件などが緩和され、小規模の事業者が活用しやすくなっているように見えますが、メリットばかりではないため注意が必要です。

業務体制に対する要求レベルが高い

小規模不動産特定共同事業を行うためには、法定の資格等を有する「業務管理者」を選任するひつようがありますが、それだけでは不十分で、投資家の募集活動などを行う営業部門の他に、管理部門(法令その他の規則の遵守状況を管理し、その遵守を指導する部門)及びその責任者を設置・選任し、コンプライアンス遵守が適切に図られるような体制を整備する必要があります。
コンプライアンス遵守が適切に図られるには、組織において内部牽制機能が働く必要があるため、営業部門と管理部門は別々の責任者・担当者が選任される必要があり、両者を兼務することは許されません。
また、小規模不動産特定共同事業を行うためには、事業者は宅地建物取引業者であることが要件となっておりますが、宅地建物取引業における専任の宅地建物取引士には専任制が求められていることから、監督官庁によっては専任の取引士と小規模不動産特定共同事業の業務管理者の兼務を認めていないところもあります。
「小規模不動産特定共同事業」というネーミングからは、少ない人員で手軽に事業を行うことができそうな印象を受けますが、上記の要件を満たす組織体制は専門知識・経験を有する相当数の人員を要しますので、とても「小規模」とはいえないのが実情です。

登録手続も許可取得と同様に大変

行政処分の位置づけの中で、「登録」は「許可」よりも審査が緩いと通常は言われていますが、小規模不動産特定共同事業の登録に関しては、不動産特定共同事業の許可要件よりも登録要件が緩和されてはいるものの、そもそもの制度趣旨が「投資家保護」であることから、登録の審査は許可の審査に負けず劣らず厳しいものとなっており、登録までの日数も数ヶ月に及びます。

事業総額が小さいにもかかわらずたくさんの投資家を集める必要がある

小規模不動産特定共同事業という名前からは、少数の投資家から出資を集めて小さく事業を行うような印象を受けるかもしれません。
小規模不動産特定共同事業においては、事業参加者が行う出資の価額及び当該出資の合計額が以下の金額を超えないことが法律で定められています。

一 事業参加者が行う出資の価額 百万円(当該事業参加者が特例投資家である場合にあっては、一億円)
二 事業参加者が行う出資の合計額 一億円

要するに、一般投資家から出資を集める場合、事業総額が1億円が上限で、ひとりの投資家から出資していただく金額の上限が100万円ですので、事業総額の上限額1億円を集めるためには、投資家を少なくとも100人集める必要があります(1人100万円 × 100人 = 1億円)。 100人の投資家から出資をしていただくのは、少数の投資家からそれぞれ多額の出資をしていただくのと比べると、想像している以上に大変です。

クラウドファンディングサイトを立ち上げて募集することも可能ですが、そのためには許可取得と同様の電子取引業務についての登録を受ける必要があり、また、システム構築・維持コストも同様に掛かりますので、募集できる事業総額の上限を考えると、コストに見合った効果があるのか慎重に検討する必要があります。

事業がうまくいった際の事業総額の天井の存在

100人の投資家を集めるのは大変ですが、順調に出資を希望する投資家が集まっても、上記の通り一事業者に許されている事業総額は1億円と設定されてしまっているため(特例事業者(SPC)を利用した第二種小規模不動産特定共同事業であれば、特例事業者毎に上限1億円で、総額10億円まで複数の特例事業者を利用して出資を集めることができます)、投資家を集めることができる信用力や営業力のある事業者はこの天井にぶつかってしまうことになります。


小規模不動産特定共同事業を検討されている事業者の中には、「小規模不動産特定共同事業でうまくいったら、通常の不動産特定共同事業の許可を取得する」とおっしゃる事業者もいらっしゃいますが、上記の通り試しに行うにはかなりハードルの高い事業であり、許可事業への変更にはさらに追加で時間がかかることから、本気でこの事業において早期に成功させる意気込みのある事業者さまは、最初から許可事業の方を目指されることをおすすめいたします。



不動産特定共同事業において事業者がクラウドファンディングを行うためには、業務を遂行するためのシステム(電子取引サイト)を構築し、かつ、業務体制を整備し、電子取引業務を行うための認可を監督官庁から受ける必要があるため、

投資家にとっての不動産クラウドファンディングのメリット・デメリット

事業者にとっての不動産クラウドファンディングのメリット・デメリット

を理解した上で、自社が不動産クラウドファンディングによる投資家募集を行う必要があるかどうかを慎重に検討するのが望ましいです。

投資家にとってのメリット・デメリット

まずは、不動産特定共同事業商品をクラウドファンディング化した場合の、投資家にとってのメリットとデメリットを整理します。

投資家にとってのメリット

不動産クラウドファンディングの場合は、商品内容の確認から申し込み、契約手続、決算報告までをすべてネット上で完結できるため、手元の書類が増えることなく、迅速・手軽に不動産投資商品への出資を行うことができます。

不動産特定共同事業商品の場合は、商品パンフレット、契約成立前交付書面、契約成立時交付書面、財産管理報告書といった様々な契約書類やレポートなどがあるため、かなりのページ数の書類を保管する必要がありますが、これらがペーパレス化されネット上で管理できるのは、投資家にとっての管理の手間の大幅な削減に繋がります。

また、不動産クラウドファンディングでは、契約手続きのために投資家が事業者の事務所に出向く必要がなく、契約書類への記入や本人確認書類の送付などがすべてパソコンやスマホなどを利用して円滑に行うことができるため、投資家が投資のための行動に割く時間や手間の削減にもなります。

投資家にとってのデメリット

ネット上で投資商品管理がすべてできてしまう便利さがある一方で、投資家がしっかり情報管理を行なっていない場合には、自分がどの商品に投資しているのかを忘れてしまったり、投資家が亡くなった際に、どの商品に投資しているのかを相続人が把握するのが困難になるリスクがあります。


事業者にとってのメリット・デメリット

不動産クラウドファンディングを導入することは、不動産特定共同事業を運営する事業者にメリットだけをもたらすわけではなく、デメリットも生じるため、双方をしっかり理解しておく必要があります。

事業者にとってのメリット

商品数や投資家数が多くなる場合に、運営システムにて一元管理できるため、書面での契約手続を行う場合に比べて効率的な事業運営を行うことができます。

また、様々な業務をシステムにより自動化することにより、業務におけるヒューマンエラーを小さくすることができます。

事業者にとってのデメリット

システムの構築を外注する場合には、導入の際のイニシャルコストがかかるだけでなく、サーバー保守費用やトラブル対応費用などのランニングコストがかかります。自社で構築する場合には、システム構築・運用に必要な能力を有するエンジニアを社員とする必要があるため、その分の人件費が継続的にかかります。

また、システムトラブルが生じた場合や改善が必要になった際には、迅速に対応する必要がありますが、外注の場合には迅速に対応できるかどうかは外注先次第であるというリスクを抱えることになります。

また、匿名組合型商品をクラウドファンディングで販売する場合、不動産特定共同事業(第1号事業)の匿名組合型商品の場合は対象不動産を事業者のオンバランス(資産)のまま事業化するため、出資持分の販売により売上計上することができないことから、システム構築・運用に必要な資金をどのように回収するか検討する必要があります。


事業者における不動産クラウドファンディング導入の検討ポイント

上記の投資家・事業者双方のメリット・デメリットを理解した上で、自社が事業化を検討している商品が不動産クラウドファンディングにマッチしているか、システムへの投下資金をどのように回収するか、コストに見合ったリターンが得られるのか、事業及びシステムを適切に管理運営する業務体制を整備できるのかといった視点から、不動産クラウドファンディング導入の要否を検討することが望ましいです。.



クラウドファンディング型商品を事業化すべきか、事業化する際にはどのような手続が必要になるかについては、初回無料相談にてご説明いたします。

電子取引業務とは

不動産特定共同事業における電子取引業務とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法、要するにインターネットを活用した方法により、勧誘の相手方に不動産特定共同事業契約の締結の申込みをさせる業務を言います。

電子取引業務を行うためには、電子取引業務を適確に遂行するために必要な体制が整備されている必要があり、そのような体制が整備されていることについて監督官庁の審査を受け、認可を取得する必要があります。

電子取引業務を行うために整備すべき業務管理体制

電子取引業務を行う不動産特定共同事業者は、次に掲げる要件を満たした業務管理体制を整備しなければなりません。

  1. 不動産特定共同事業に係る電子情報処理組織の管理を十分に行うための措置がとられていること。
  2. 電子取引業務に係る不動産特定共同事業契約に関し、その不動産特定共同事業契約に係る不動産特定共同事業者等(不動産特定共同事業者及び特例事業者)の財務状況、事業計画の内容及び資金使途その他電子取引業務の対象とすることの適否の判断に資する事項の適切な審査を行うための措置がとられていること。
  3. 電子取引業務に係る不動産特定共同事業契約を締結した事業参加者が当該不動産特定共同事業契約について契約成立時交付書面を受領した日から起算して8日を経過するまでの間、事業参加者が当該不動産特定共同事業契約の解除を行うことができることを確認するための措置<クーリング・オフ>がとられていること。
  4. 不動産特定共同事業者等が不動産特定共同事業契約を締結した後に、当該不動産特定共同事業者等が事業参加者に対して不動産特定共同事業の状況について定期的に適切な情報を提供することを確保するための措置がとられていること。

電子取引業務に係る重要事項

電子取引業務を行う不動産特定共同事業者は、業務管理者名簿その他電子取引業務の相手方又は事業参加者の判断に重要な影響を与える法定事項【電子取引業務に係る重要事項】を、Webサイトを通じて、投資家に対して明瞭かつ正確に閲覧させなければなりません。

電子取引業務の認可が必要となる手続き

  • 契約成立前交付書面の電子交付
  • インターネットを通じた出資申込み
  • 契約成立時交付書面の電子交付

電子取引業務の認可が不要な手続き

  • 財産管理報告書の電子交付